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82話 世界に感謝を



たとえ戦いに勝利しても。
全てを失わなかった訳ではない。
夢の世界だからといって、何もかもが都合よく元通りになどならない。
ゆえに俺たちは死に逝く彼等に対し、黙祷する。


「……ラーク先生。」
「ボスぅ……」
「……ち、湿っぽいガキ共め。
 勝ったんだから、もっと喜べってんだ。」
醜悪の悪魔の正面で相手取るという、もっとも危険な戦場で奮闘したラーク教師。
最後まで戦い抜いたのはさすがとしか言いようがなかった。
夜会の生徒たちが彼の元に集まり、涙を流す。
「……お世話に、なりました。
 いいえ、ありがとうございました。」
「……殊勝なもんだな聖二生徒。
 まぁ、悪い日々じゃなかったぜ……」
俺たちは眠る男に黙祷を捧げる。
……俺はその眠る顔を何処かで見たような気がした。
デジャヴというやつだろうか?
もしかしたら俺の時代に、この男の子孫がいたのだろうか?
分からないし、俺の気のせいかもしれないが。
「……お前はどうするんだ、キリング。
 イムヌスに帰るのか?」
カデンツァはこの有様だ。
学院どころかこの都が復興するには年月を要するだろう。
「……いいや。
 私は先生の後を継ぐ。
 そのためにはまずは家の力を使おうとも、
 この国を復興させないといけない。」
「……そうか。」
その復興した都の姿を俺が見ることはないだろう。
「じゃあな。」
「あぁ。」
俺はキリングと別れ、次の場所に向かって歩いた。


「……ザフキエル様。
 貴方がいなければ我々はいま此処にはいなかったでしょう。」
シャルナーが決戦場の跡地に向かって話しかける。
無論そこにザフキエルの死体がある訳ではない。
天使は死体を残さない。
人間のように黙祷といった文化もない。
「……そうだな。
 高位天使はウルイエルのような詐欺野郎ばかりだと思っていたが。」
今だけは俺も天使として、一礼をする。
「……ありがとうございました。」
その場から立ち去ろうとすると、封座聖二がやって来る。
「よう、ハイド。
 お前はこれからどうするんだ?」
「さぁな。
 如何せん戻る場所があるのかもよく分からん。」
もうこの世界に高位天使は残っていない。
もしかしたらいつかは夢の藻屑として消えてしまうのかもしれない。
だがそれでも。
「消えるまでは、俺なりにやる。
 それだけの話だ。」
「そうかい。」
「そういう貴方達はどうするつもりなのかしら?」
後ろからシャルナーもやって来る。
そうだ。
時の放浪者と呼ばれるこの男はこれからどうなるのか。
「……そうだな。
 ただ長居することは、きっとできないと思う。」
「……そうか。
 まぁ、これも何かの縁だ。」
俺は右手を出す。
「いつの日か、また会おう。」
「あぁ。」
それが俺が見た封座聖二の最後の姿だった。


おびただしい程の墓標。
この戦いで死した人々のものだ。
その墓の一つに生き残った警備隊員たちが集まっていた。
「メイク隊長。
 隊長の強さは私にとって憧れでした。
 力不足ながら、私が後任を務めることになりました。
 どうか見守りください。」
一人の女性が墓に剣を添え、警備隊員たちが敬礼する。
「メイクのことだから、剣より金銭でも欲しがるんじゃないかしら?」
「もうー、シャルさんってば。」
コダマが私の悪態に呆れる。
我ながらもう少し素直に感謝の言葉を残すべきだとは思うが。
けれどメイクがそういうもの欲しがるかなぁ。
ただはっきり言えるのは。
「……本当に、一生かかっても返しきれないものを残していくんだから。
 まったく。」
元々あれこれしんみりする関係ではない。
私はその場を離れようとする。
「よう。」
封座聖二がやって来た。
タイミングが良いのか悪いのか。
「あちこち挨拶でもしてるのかしら?」
「まぁそんな感じだな。
 いろいろと此処のお墓にも挨拶しておこうと思ってな。」
どうしてそんなことをしているのか。
時の放浪者と呼ばれる彼はこれからどうする気なのか。
興味はあるが。
「よく分からないけど、まぁ応援はしてるわ。」
「妙なもんだな。
 お前だってまた別の世界に行くんじゃないのか?」
「どうして?」
「いやどうしてって、それがお前があのプレイって奴と約束したことだろ?」
あぁそのことか。
確かに私がこのゲームに勝ったら、夜子様の時代に還してくれると。
そういう話を確かにした。
「一応約束は守ってくれるつもりだったみたいよ。
 アリンはあのとおり元気だし。
 私も貴方も勝者って扱いみたいね。
 ……でもまぁ、もういいかなって。」
「……そうか。」
「アリンとも仲直りはできたし。
 ……ていうかあの子、私のこと完璧に忘れてたんだけど。
 どう謝るのか凄い悩んだわ。
 メイクやコダマのこともあるし。
 それ全部放り投げてあの時代に還るなんて。
 私にはとても無理だわ。」
「律儀なもんだな。」
「貴方には言われたくないわね。」
軽いやり取り。
その程度が私たちには相応しいだろう。
そのまま私たちは通り過ぎる。
もう会うこともないように思えた。
「……でも刹那さんは。」
「……そうね。」
刹那はまたいなくなってしまった。
あの身体でどこに行ったのかは分からないが。
「……たぶんあの子を繋ぎとめることは誰にもできないのかもね。」
それが時の放浪者と呼ばれる存在の宿命なのか。
単に刹那だけの性か。
私には、分からないけれど。
「あー、シャルちゃんとコダマちゃんだー!」
アリンの元気な声が聞こえる。
ぶんぶんと手を振りながらこちらにやって来る。
「まぁ案外あっさり会える時が来るかもね。」
「はいっ!」
今はこの幸せをかみしめよう。
私の戦いは、これで終わりだ。


「……哀音か。
 どうだった?」
「……やるべきことは、やらせた。」
墓参りを終えた俺は哀音と合流する。
共に歩きながら哀音の成果を聞く。
「……やっぱり幼い子供たちがいる区画があったみたい。
 その責任者はエルカサス・フォト。
 表向きは力ない魔法使い達の保護施設。
 でも実態は……人体実験の場。」
「……学院長か。」
まぁ天使とかを学院に入れてた訳だし。
裏ではいろいろやってたんだろうな。
俺たちの世界では最終的には三魔女に誅されるわけだし。
「……でも彼女の目的だった神楽魔姫は。
 彼女とまったく関係ないところで消えていった。
 皮肉もいいところだけど、同情はしない……」
「それで、どうなった?」
「……情報収集魔法でバーパイア議長に共有した。
 当然そんなことが表沙汰になったから。
 学院長も、他の権限も、全てなくなった……」
「……そうか。」
哀音が自由に動けるようになったいま、それは容易いことだった。
「……会わないのか?
 その、子供たちに。」
「……会わない。
 それは、あの子たちを戸惑わせるだけだから。
 元気に、生きていけるのであれば、それでいい……」
「……そうだな。」
その想いには強く共感できた。
何故なら、俺だって。
「聖二君。」
彼女が、ナギサがそこにいた。
それだけで、俺は感無量だった。
「行くんだよね?」
「あぁ。」
短いやり取り。
本当はもっと話したいことだってある。
でもどれだけ話しても未練は残るから。
「ナギサに会えて良かった。
 でも、俺にはまだ助けないといけない人がいるから。」
彼女と接していて俺ははっきり分かったんだ。
確かに彼女は雫の元となった少女なのかもしれない。
でも、それでも、きっと。
「ナギサはナギサ。雫は雫なんだ。
 だから、俺は行くよ。」
「そっか。
 ……うん、そうなんだね。」
ナギサは少しだけ顔を背ける。
でもすぐに俺の方を向いて。
「いってらっしゃい。」
「あぁ、行って来る。」
それが俺たちの最後のやり取りだった。
「……俺たちもいるの、忘れてるだろ聖二。」
「……うん。なんか、薄情……」
ガライと詩織が横でなんか文句を言っていた。
「そんなことはない。
 お前らも元気でな。」
「……ちょっと、なんですかあのついでのようなやり取り。
 どう思いますか詩織さん。」
「……聖二君が、こんな薄情な人だったなんて……」
何がそんなに不満なんだ。
俺はこれ以上なく慈愛の精神に満ち溢れている。
まぁそんな冗談はともかく。
「俺と仲良くしてくれてありがとな。
 お前らが、一番最初だったから。」
最初の何も分からなかった頃の学院生活。
まだ七罪魔が出てこなかった頃だったのもあるけど、でもそれでも。
「愉しかった。
 本当に、ありがとう。」
「……お、おう。
 なんかよく分からねぇが。」
ガライは俺の胸を叩く。
「頑張って来いよ。」
「おう。」
「……元気でね、聖二君。」


そして。
俺と哀音は、リオンが待つ場所に合流した。
「お別れは、済ませたようだな。」
「あぁ。」
とてつもなく巨大な大木。
そしてその大木に寄り添うように広がっていく木々。
かつてあのフェイリィという女が眠りに入った場所だった。
その大木の枝の一つに調停者プレイが座っていた。
奴はぶつぶつと話し始める。
「……フェイリィの奴が此処で眠ってからもう20時間を超えた。
 おかげで此処はこのザマだ。」
この世界の核。
夢の器と呼ばれた神楽魔姫は消えた。
にもかかわらず何故この世界はまだ消えないのか。
「夢の器は、"神楽魔姫からフェイリィに移った"。
 力のある者。
 天使でも悪魔でもない者。
 そして、”何もしない”者。
 なるほど、七罪魔でなくなったのならばこれ以上に相応しい奴はいない。」
何故そんなことになったのかはプレイにも分からないと言う。
ただはっきり言えることは、こうなることを見越してフェイリィを送り込んだ奴がいる。
それが誰かは分からないが。
「……ありがとう。
 この世界を残してくれて。
 可能性を、残してくれて。」
「……フン。
 まぁ僕は弄べる世界があればそれでいいが。」
こいつに言った訳ではないが。
まぁ今までの遊ぶ者と違ってそこまで悪い遊ぶ者でもないのかもしれない。
「ふぇふぇふぇ。
 また会うことになるとはな、オマエラ。
 しかしこの結末は僕ちんにも予想の外れの外れ。
 まったく何が起こるか分からねぇもんだなぁ。」
巨大な怪鳥の悪魔。
時渡の悪魔ルドーワが大木の中から出現した。
「ようなんか久しぶりだな、ルドーワ。
 またこれから世話になるぜ。」
「今回は土産話が沢山聞けるんだろぉ?
 だったら出血大サービスだ。
 ふぇふぇふぇ、お望みの世界に連れて行ってやるよ。
 僕ちんの上司からも100点満点のお墨付きだ。」
「そりゃ助かる。」
そして俺たちは再び始める。
時渡を。
まだ、俺には助けないといけない人がいるから。
俺はこの世界を振り向いて一礼する。
「ありがとう。
 そして、さようなら。」
この世界に来れて、仲間たちに会うことが出来て良かった。
だからまだ、俺は頑張れる。
どれだけ心が引き裂かれそうになっても。
この日々を思い出すことで、俺は戦っていけるから。

俺たちは片手を上げる。
時渡(ときわたりを始めよ!!」
そして俺たちの姿はその世界から消失した。


夢の世界は。
現実の世界は。
繋がっている。
その繋がりは人の心か、世界そのものか、詳しいことは分からないけれど。
だからこの人々が勝ち取った世界が。
どこかの現実の世界で実現することを。
俺たちは強く願う。
そう、誰もが願う当たり前の世界。
ハッピーエンドの世界を。


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