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83話 真実の裏
「Zzzzz……Zzzzz……Zzzzz……む?」
なんか違う場所にいるぞ。
「???
どこだ此処は?」
くんかくんか。
む、違う刹那族の匂いがする。
「おい刹那。」
「む、刹那だ。」
違う刹那だ。
ちょっとおっきい。
刹那ももっと成長しないといけないな。
「足を直してやるぞ。
バイオテクノロジーで任せろ。」
バイオ?
む、もしかして攻撃されるのか?
「???
何してる?」
「バイオは毒だぞ。」
「違う。医療技術だ。」
「そうだったのか。
知らなかった。」
おっきい刹那はちょっと待ってろと行ってしまった。
ところで此処はどこだ?
つんつん。
床は植物?フェイリィ?
くんかくんか。
フェイリィの匂いはないな。
むむ、分からない。
「……成程。やっぱりこういうことか。」
なんか真那が出て来た。
む、ちょっといつもよりおっきい?
さっきの刹那と同じくらいおっきくなったぞ。
「連れて来たぞ。
こいつがバイオテクノロジーを使える。」
「えぇ、お任せくださいお館様。
このわたくし、鮫島悟にお任せを……
え、その姿はまさか先代補佐官……?」
「……ん、誰だっけ君は?
あぁ謡君の弟子にいた気がするな。」
知らない奴が出てきて、知らない話が始まったぞ。
「刹那の中の方の真那か。
でも刹那の足を直す方が先だ。」
「わ、分かりましたお館様。
で、ではミニ刹那様、こちらに……」
「刹那はミニ刹那じゃなくて刹那だぞ。」
おっきい刹那とおっきい真那の話を聞きたい気もする。
でも足を直してくれるならそっちの方がいいな。
神楽魔姫との戦いで右足を失った刹那。
その刹那を鮫島悟と名乗った男が絨毯に丁寧に乗せる。
絨毯は60センチほど床から離れ、移動を始める。
「むむ、魔法のじゅうたんか?
よし行け。れっつごーだ。」
「は、ははっ。」
男は何故か従者のように絨毯に続いた。
先程までの話だと足を直すのだろう。
そしてその場には同じポニーテールの刹那と真那だけが残った。
お互いの服を交換してしまえば見分けるのは難しい二人。
先に口を開いたのは刹那の方だった。
「お前には別に用はないぞ。」
「私の方は用がある。
今更語るまでもなく、私はあの刹那の中にいた巡り続ける真那な訳だけど。
君にその辺の話をする必要はなさそうだね。
時間の無駄だし。」
「うん。
それであっちの刹那を呼んだのはお前か?」
「呼んだってどこの話さ。
此処に呼んだのは君の方だろう?
……あー、なんかややこしいな。
眺める者への分かりやすさのために、
今までいた刹那の方を、ミニ刹那と呼ぶことにしよう。」
「ミニ刹那じゃなくて刹那だぞ。」
「で、だ。
ミニ刹那をこの屋敷に呼んだのは君だね。」
「そうだ。
足を直すからな。」
「まさかと思うけどそのために呼んだの?」
「あとついでに、
お前がいることを教えるところだ。」
「いやそれは勘弁して欲しいなぁ。
刹那が私のことに気づいたら潰される可能性が高いじゃん。」
「それを決めるのは刹那だ。」
「ミニ刹那ね。
あーもう、この呼び方が嫌だっていうなら、
M刹那とかにしようか?」
「M刹那。エムな刹那?」
「ミニ刹那の略だよ。なにこの頭の悪そうな会話は。」
とにもかくにも小さい方の刹那をM刹那と呼ぶことで合意がとれたようだ。
「まぁせっかく来たんだ。
何個か確認しておきたい。
M刹那がさっきまでいた世界にフェイリィを送ったのは君だろ?」
「そうだ。」
「なんでフェイリィとそんな関係になったのかは知らねーけど。
まぁそこは長くなりそうだからいいや。
重要なのはあのフェイリィが七罪魔の属性を有していなかったことだ。
それはイコール夢の器の資格を有したことになる。
となると神楽魔姫が消えることを見越してフェイリィを送り込んだってこと?」
「違うぞ?」
「違うんかい。」
真那は軽く溜め息を吐く。
彼女を知る者が見れば珍しい仕草ではあった。
「フェイリィが静かに眠れる場所が欲しいって言ったからな。
それで夢の世界に送ったぞ。」
「いや全然静かじゃないだろ。
グリモアとダルバックが”あいつ”を通して送られることくらい分かってるじゃないか。」
「フェイリィの後にあいつらが来たんだ。」
「あぁ、時間差ってやつか。」
僅かだが間が空く。
再び真那の方から話し始めた。
「……その様子だと私が思ってたよりも、深い干渉はしてないってことか。
気にし過ぎたかな?」
「ちょっとアリンとは話したな。」
「アリン?
……あぁあの吸血鬼の。
どうも高位天使ガルクエルの子孫らしいけど。
まぁ真理もそうらしいし、子孫なんてそこら中にいるか。」
「お前の方がたぶんなんかしてたぞ。」
「はてなんのことやら。」
「嘘。」
「あー分かったよ。
ただ話してあげるからM刹那に私のことを教えないよう頼むよ。
まだ見たいものもあるから、あの刹那の中にいたいんだ。」
「分かった。
今回だけだぞ。」
仕方なくといった風で真那が話を続ける。
「確かにM刹那があの世界に行くよう誘導したのは私だ。
いろいろと彼女の記憶の中から知ってる声を使ってね。
目的は、神楽魔姫と会わせるため。
神楽魔姫の反応を見たかったのさ。
結果として夢の世界が1つ潰れるリスクはあったけど。」
「やっぱりM刹那に教えるぞ。」
「いや約束破るとか非人道的な行為にも程がある。
そんな悪い子に育ってしまったなんて、悲しいなぁ。」
「むむ。」
「まぁ早合点せずに最後まで聞きなって。
神楽魔姫の性質を見極めておくことは将来性を考えれば有益だ。
”あいつ”との戦いにも役立つかもしれないし、グリモアとダルバックを撃退するのにも使えるかもしれない。
まぁ結果だけみればそうはならなかった訳だけど。」
「やっぱりM刹那に……」
「まぁ待て。ちょっと待て。
確かに神楽魔姫は予想以上に大きく弾けた。
だからこそM刹那が殺される前に私が介入したんじゃないか。
神楽魔姫があのままカデンツァの戦いに参加してたらもっと滅茶苦茶なことになってたのは間違いない。
その功績は評価して欲しい。」
「そうか?」
「そもそも神楽魔姫の件さえ除けば、
M刹那がいたことで良い方向に進んだことの方が多いじゃないか。
えーと、シャルディスにメイクにコダマ、だっけ?
彼女達の行動がなければどのみちグリモアと……あぁいちいち長い、触手コンビでいいや。
触手コンビにあの世界は滅ぼされていた。
これはもう私がMVPといっても過言じゃないんじゃないかな?」
「気のせいだぞ。」
「まぁとにかくだよ。
触手コンビを撃退できた可能性が生まれたことは僥倖だった。
なにせ”あいつ”は夢の世界全てにあの触手コンビを送り込んでいる。
私が観測できた範囲で45の世界。
現在進行形でいろんな時の放浪者たちが奮闘しているけど。
既に8つの世界で敗北を喫した。
ここで1つの世界で勝利したという成果は大きいと思わないかい?」
「ちょっとおかしいぞ。
どうしてそんなに簡単に送れるんだ?
うーんと願わないと送れない筈だぞ。」
「まぁそこは”あいつ”の人心掌握力の賜物と評価するしかないね。
要は夢の世界の一定多数が七罪魔の存在を望めばいい。
案外いるんだよね。ああいう魔王やら破壊神やらを望む馬鹿。
今いる世界への失望か、単なる興味か、もしくは狂人か破滅願望か底抜けの阿呆か。
理由はそれぞれだけどまぁそういった感情を否定は出来ないでしょう。
それこそが弱い愚かで哀れでちっぽけな、愛しい人間たちなのだから。」
「なに言ってるのかよく分からん。
それで残り36の世界では勝てそうなのか?」
「え、刹那は此処で見てるんじゃないの?」
「そんな暇じゃない。
私は多忙だからな。」
「うーん、他の巡り続ける真那から情報共有しないと詳細は分からないけど。
殆どは勝てそうもないね。
やっぱり夢の器が強大であればあるほど、その時代の苛烈さを表してると見える。
100年前の絶死の魔法使い、神楽魔姫。
300年前の最悪の矛盾曲、月詠夜夜子。
500年前の星産の錬金術師、憩結夢。
700年前の人類正義、ウルオレ・サーディア。
こいつらみたいな連中がいると行動ブレの程度によっては勝利できそうな気もするけど。
結局それも確率論というか気まぐれというか。」
「つくよーこについては、アリンが知ってたぞ。」
「……あぁあいつ?
あいつとは仲良くなれそうもないかなぁ。
私とは行動原理が真逆すぎる。
あくまで私の見立てだけど、神楽魔姫が一番接しやすい部類じゃない?
まぁそれはさておき、このままじゃ夢の世界計画が頓挫してしまう。
やっぱり”あいつ”の討伐準備を急いだ方がいいかな。」
「やっぱり何かしようとしてるぞ。」
「いやこれは絶対誰もが望むことだよ。
刹那だって、聖一君ですら望むはずさ。
ただ永遠の器が2つ以上は必須だけど。
どれだけ送り込んでもレベルを全員1にされたら戦いにならない。」
「そんなものないぞ。」
「あるんだよ。”あいつ”の世界では勝手にレベル化されるの。
今の私や刹那なら120くらいかなぁ。
レベル対策が終わってから決戦に移行だね。
タイトルは『全ての因果が収束した最終決戦』ってところかな?
それで気になってたんだけど、刹那は時渡の悪魔ルドーワと知り合いなわけ?」
「そいつは知らない。
コロボックルって奴は知ってるぞ。
高いお店の奴だ。」
「いやコロボックルはどうでもいい。
だとするとルドーワの上司の方か。
聖二君とルドーワの話を盗み聞きしてた限りは、上司命令って言ってたしね。
……となるとまさかとは思うけど。」
「???」
「……まさか運命の悪魔オルフィレウスと手を組んだ?」
「そうだぞ。とても大きい奴だな。」
「……うわ、面倒だな。
事実上の高位悪魔統括と手を結んだとか、あとあと考えると厄介このうえない。
名と違って仕事熱心な奴だからね。
……しかしよくあの堅物竜を説得できたな。
はぁ、まぁ”あいつ”の討伐が楽になったことを今は喜んでおくか。」
「何ごちゃごちゃ言ってる。
また悪いことをしようとしてるのか?
ボコンだぞ。」
「……あと聖一君もいるんだよなぁ。
まぁいいや。
だいたい聞きたいことは聞けた。
巡り続ける真那ネットワークも更なる改善が必要だね。」
「M刹那が戻ってきたぞ。」
絨毯に運ばれてM刹那が戻って来る。
既に右足の蘇生は終わっていた。
「しかしまぁ聖二君たちもこれから大変だろうねぇ。」
「またあいつらが出て来るのか?」
「そうだね。
まだまだ聖二君たちはあの触手コンビと戦わなければならない。
なにせ私の観測範囲だけでも45セットいるからね。
1セット倒すのに沢山の奇跡や刹那、巡り合わせでようやくだった。
はたしてどこまで持つかな?」
「………」
真那は他人事のようにそう言った。
戦いは、まだまだ続く。
時の放浪者となった聖二達の戦いは終わらない。
刹那と真那の戦いも終わらない。
それが本来生きる世界を踏み外した者たちの末路なのかもしれない。
だがそれでも、と。
どこまで踏ん張り続けることが出来るのか?
それはまだ、刹那にも真那にも、分からない。
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