SS TOPに戻る
前へ
次へ
85話 果てに彼等は邂逅する
世界の可能性は無限に存在する。
滅びの可能性も。
誕生の可能性も。
これはそんな可能性をめぐる戦いの物語。
それこそが時の放浪者の戦いの本質なのだ。
「……そのやり方が、真の怒りを買うということを。」
刃に落ちた聖二の隣で。
サイボーグ戦士は目の前の光景に静かに震える。
(……なんだ?)
「貴方は、分からないんですね。
過去の僕にも分かりませんでしたが。」
その髪は黄金に燃えていた。
「これが人の怒りなのだと。
僕は知る事が出来ました。
それがどれほど尊い怒りなのか。」
そしてその少年は、その男は。
模型少女の胸を貫いた。
貫いた剣の先に刺さるはグリモアの本体である絶命の書。
「理解できないなんて。
貴方はくだらない、ちっぽけな存在です。」
「……覇帝の力だと?
人間ですらない貴方に、何故……?」
それの理解に達する前に、クレフの剣さばきが一瞬でその魔本を分解した。
その瞬間、模型少女の身体が倒れる。
「……”成功”しましたよ。
僕たちの戦いには、意味があったんです。
あの戦いは、無意味なんかじゃなかったんです。」
それは誰に向かって喋っているのか。
だがその表情には確かな安堵があった。
「……ぷはぁっ!?
こ、此処は……」
「……あ、起きた。」
俺を起こしたのは哀音のようだ。
今まで俺は何をしていたんだ?
「……そうだ。
俺は自分で自分の身体を……」
「……たぶん、掌握の悪魔の能力。
あの言霊ってやつだと思うけど。」
……そういう、ことか。
だがだったらどうして俺は?
「僕も回復能力くらい身に着けた方がいいと思いまして。」
その少年戦士が腕を回転させると傷薬が出て来た。
「……身体を改造してるのか?」
「まぁそんなものだと思ってください。」
「……すまない、ありがとう。
クレフ、って言ったよな?」
「えぇ。」
「……あれから、どうなったんだ?」
どうも話を聞くに。
クレフが覇帝の力を発動させて掌握の悪魔を撃退したらしい。
けどそんなあっさり覇帝の力なんて。
この男、いったい何者なんだ?
「何者でもないですよ。
単なる一介のサイボーグです。
僕程度で覇帝になれる訳もありません。」
「それはどういうことだ?」
一緒にいたらしいリオンが尋ねる。
「……これは僕たちのブレインの考えなんですが。
幾百、幾千、幾万もの戦いで多くの時の放浪者が散っていきました。
多くの無念を残し。
でもその全ては境界線に残り。
ずっと、ずっと、滞留を続けました。
無念と、後悔と、そして……」
「……怒り。
まさか、その怒りが一点に集まったということか?」
「多分ですけどそういうことです。
もともと覇帝の始まりは理不尽への怒りだった。
そしていま数多くの夢の世界に、七罪魔という理不尽が降り続けています。
つまり、そう。」
「……覇帝が出現する怒りに達した、ってこと?」
哀音の確認に、クレフが首を縦に振る。
時代の整合性など無視し、現れ続ける七罪魔。
厳密には掌握と醜悪だけだが、奴等は何の理由もなくても世界を滅ぼす。
何故そんなことがずっと続いているのか、それは俺達には分からない。
「……だから、いまこそ反撃の時でしょう。
僕に偶々宿った覇帝の力もまた何度か使えば消えてしまう程度のもの。
けどこの短い期間だけならば。」
「……だったら、急ごう。
時渡をはじめ……」
「すとーーーーーっぷ!!」
片手を上げる俺を制する大声。
その声はルドーワのものだった。
「な、なんだよルドーワ。
どうして止めるんだ?」
「僕ちんの上司から待ったがかかった。
覇帝の力を持つ奴の時渡は禁止だってよ。」
「はぁ!?
なんだよそりゃあ!」
「僕ちんに言うな。
覇帝って奴はあちこちから警戒されてるんだ。
オマエラ時の奴隷どもとは違ってな。」
それだけ言ってルドーワは通信を切った。
他の世界に行けないんじゃせっかくの最強の力も意味がないじゃないか。
「……どうする?
哀音が世界間のテレポートとか出来るか?」
「……いや、そんな便利なこと出来るなら最初からやってるから……」
そりゃそうだ。
俺達が悩んでるところでクレフが提案する。
「……だったら、僕の方で出来ないでしょうか?
世界と世界の間を超えること。」
「……出来るのか?」
「どうでしょうね。
僕にはまだまだ人間の理解が足りないですから。」
足りない奴に覇帝の力は宿るものなのだろうか?
だがそれならば。
「俺達の心を繋げるとか、出来ないのか?
哀音がそんな魔法を知ってそうじゃないか?」
「……私をなんだと。
まぁ、知ってるけど。」
やっぱり知ってるじゃないか。
だったらやることは一つだ。
「行こうぜ。
この戦いを少しでも早く終わらせるために。」
これも、また。
長い長い戦いの一節に過ぎないのだろう。
けれど、それでいいんだ。
俺達は物語の主人公なんかじゃないのだから。
特別な存在なんかで、なくていい。
俺の行動が、意思が、決意が、少しでも。
知らない俺達の平穏に繋がるのであれば。
「行こう!」
俺達は4人揃って飛ぶ。
世界と世界の間を越えながら。
リオンの持つ翼は元々は高位天使ザフキエルのもの。
ザフキエル本人ではないため完全とはいかないが、世界を超える力を有している。
その能力に覇帝の力でブーストをかければ。
更に哀音の魔法で俺達の精神をリンク。
クレフの中に蓄積された人々の怒り。
その想いに俺達は強く共感する。
この世界は夢の世界。
強い想いは大きな力になる。
それでも、人の心は無限でも無敵でもなく。
いとも容易く折れるほど脆いもの。
でも、それでも。
「俺達は一人じゃない。
それが、俺達にとっての幸福なんだ。」
それだけでいい。
同じ目的を目指した、数多くの時の放浪者たち。
その想いは誰もが同じだった。
それこそが俺達の救いなんだ。
だから、この身も心も、散るまで戦うことになったとしても。
「構わない。」
そう、今なら言い切れる。
後悔はないと。
そして俺達は追いつく。
錬金世界を支配する、ただ悪徳しか持たない存在たちに。
「……しつこい。
まだ来るか。」
また新たな錬金兵に憑依したのか、絡繰の姿のグリモアが悪態をつく。
そしてその下に位置するのは錬金術が集合したような機械仕掛けの巨大な怪物。
本当の意味で混沌と化した醜悪の悪魔ダルバックだった。
……いや、もはや悪魔ですらないのかもしれない。
「……あぁうぜぇ、うぜぇなぁ、てめぇらは。
雑魚のくせに、ゴミカスのくせに、いつもいつもいつもいつも。
いつになったら分かるんだ?
どんだけやっても我は無敵で、最強で、いくらでも増え続けるんだ。
なのにあぁ、あぁ、ああぁあぁぁああぁぁあぁぁあっっっ!!」
あらゆる兵器。
あらゆる武器。
あらゆる錬金術。
あらゆるその全てが俺達に降りかかる。
「無駄ですよ。
だっていま貴方が使ってるそれは。
結局は人が造ったものではないですか。」
ゆえにクレフは、覇帝は宣言する。
「オーバードライブ。
人の叡知にて出来損ないの廃棄物を処理する。」
クレフから黄金の波が流れる。
それは俺達にはなんの影響も及ぼさないもの。
だが奴等には。
「……なに?」
「……ぐ、ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ!?
な、なんだこりゃああああ!
う、動けねぇぇぇええぇえぇえぇっっ!?」
奴等の動きを停止させる。
そもそもがお門違いなのだ。
滅びのために、人の文明に頼ったこと。それ自体が。
「貴方達の方が折れかかっていることの証明では?
案外、貴方達も滅ぼし続けることに疲れてきたんじゃないですか?」
俺達の心を通し、クレフから放たれた黄金のレーザー。
それは奴等の張りぼての機構を容易く叩き潰した。
「……くっ!?」
「……あぁ、クソが、クソが、クソがあぁぁあぁぁぁぁぁああぁっっ!?」
機械の身体が剥がれ落ち、奴等はなくなく逃走を始める。
逃がすとでも思ってるのか。
だが一人、そこから動くことが出来ないものがいた。
「クレフ?
まさか、お前……」
「……どうやら、これが限界のようですね。
僕のテクノロジーの、限界値です……」
黄金の光が消えていく。
覇帝の力の消失。
消えていった時の放浪者たちの怒りを、すべて奴等に叩き込んだ。
それをもってしても、ここまでが限界。
「……俺たちは、奴等を追う。
すまない……」
「……いいえ、当然でしょう。
むしろ、今それをしなかったらぶっ飛ばしますよ。」
そうして俺たちは今日知り合ったばかりの少年と別れた。
感謝と、祈りを込めて。
俺達は追う。
追い続ける。
奴等の姿はもう見えない。
でも、その悪意はどこまでも繋がっている。
……いま俺達はどこを飛んでいるのだろうか?
分からない。
分からない、けれど。
「……あぁ。」
……どうして?
分からない。
何故、彼女がこんな場所にいるのか。
それは、分からないけれど。
「でも、それでも……」
また会うことが出来た奇跡を。
誰とも知らない時の放浪者たちが紡いだ絆を。
俺は、尊く思う。
「……もう、二度と。
二度とそんな悲劇を起こしたりしない。」
だってこれこそが。
「そのために、そのためだけに俺は。
俺たちはこの道を選んだんだ!!」
幾百、幾千もの人々が選んだ道。
それを否定することは、誰にだって出来ない。
「……聖二君?
それと、哀音ちゃん?」
その雫は何がなんだか分からないという顔で俺達の方を見る。
死にかけの肉塊共もごちゃごちゃ言ってるが俺には奴等の言葉など耳に入らなかった。
「……お前がどこの世界の雫であっても構わない。」
「……ど、どういう事なの?
貴方は、聖二君じゃ……っ!!」
「……俺はこの時こそを望んだ。」
だから、それだけでいい。
もう一度お前と会えただけで。
「だから頼む。
行ってくれ……っっ!!」
それだけで、俺の救いになるのだから。
哀音に雫の転移を任せ、俺達は奴等と対峙する。
「……英雄は、どうした?」
「もうお前らの喉元まで迫ってるぜ。
今こそ終わらせてやる。」
もちろん嘘だが、そんなことはおくびにも出さない。
「……終わらせる?
滑稽、滑稽、滑稽。
”この”我々を滅ぼせば終わりだと?
愚か者どもめが。」
奴は珍しくまくし立てた。
錬金術と知性が混じってバグでも起こしたのか知らないが。
どのみち俺にはどうでも良かった。
「分からないだろうな。
俺達の後にも、まだまだお前らと戦う人たちがいるって気づいたから。
だからこれは俺達にとっての、終わりなんだ。」
「……あぁ?
なにをごちゃごちゃ言ってやがる。」
「……貴方達はまだまだ在庫がいるのかもしれない。
けれど……」
「終わりがないのは、こちらも同じということだ。」
戦いが始まった。
何度目になるかもう分からない、奴らとの戦い。
奴らは覇帝の力の影響で瀕死。
そこまでやってようやく、互角の戦いだった。
でも、そんなことを劣等感には微塵も感じなかった。
「転移!!」
またもや奴らの姿が消える。
珍しく往生際が悪い気もした。
また自分たちの燃料を補給しに行ったのかもしれないが。
「……あぁ。」
勝負はついた。
もはや逃げ場所すら失っていることに奴らは気づいてもいない。
「さぁ行こうぜ、二人とも。」
「うん。」
「あぁ。」
「もうひと頑張りしないとな。」
俺達は奴らの前に再び現れる。
「………」
兄だった男の隣に立ちながら。
その後ろにはかつての封座聖二がいた。
それが如何なる可能性の俺なのは分からない。
分からなかったが。
「お前がどんな経緯で此処に来たのかは知らない。
でも今だけは同じ想いな筈だ。」
哀音の心を繋ぐ魔法はまだ継続している。
俺からの一方的なものであるのは理解している。
でも、それでも。
「確かに受け取ったぜ。
封座聖二。」
確かに、そのバトンを渡すことは出来たから。
「……ごめんなさい。
うぅん、ありがとうっ!!」
その姿が消えていく。
きっとこれが正真正銘、最後に見る彼女の姿だった。
「……これで、いいんだな。」
兄の言葉が届く。
久々に聞いた、優しい声だった。
「……あぁ。
この時だけが俺の望みだ。」
「……そうか。」
もう負ける気はしなかった。
「行くぜ、兄貴!」
「……あぁ。」
「強く、なったな、聖二……」
幾百もの戦いの果てに。
幾千ものめぐり合わせの末に。
彼等は、再び邂逅した。
SS TOPに戻る
前へ
次へ