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86話 新しい世界
「うー……ん……」
私は寝ぼけ気味に目を覚ます。
何か長い夢を見ていた気がする。
夢の内容は思い出せないけど。
「ちょっと、お姉ちゃん。
起きるの遅いっ!」
「あ、ご、ごめんね。
セレリアちゃん。」
セレリアちゃんに言われて思い出す。
そういえば今は学院が夏休みだから施設に帰って来たんだった。
「あらナギサさん。
貴方が寝坊なんて珍しいこともあるものですね。」
「ご、ごめんなさい、シスター。」
私は朝食の支度を……と思ったが既に朝食は並んでいた。
うぅ、恥ずかしい。
「今日の朝ごはんは私も手伝ったのよ!」
「うん、私、がんばった……」
「そ、そっか。
ありがとうね、セレリアちゃん、イビレアちゃん。」
二人の頭を撫でる。
この子たちがこの施設に来てからもう長い気がする。
最初の頃はまぁ、大変だったかもしれない。
「いいわね、私はスーパーになる女なのよっ!
なのになんで私は初等部なのよ!」
「私は魔法使いより戦士になりたいの。
だから魔法学院より戦士学院を作るべきなんだわ。」
「うぅ、二人とも、わがまま……」
……そんな子供みたいな理由で(子供だけど)この施設の門を叩いてきた時は何事かと思ったけど、
なんやかんや学院の人たちにはシスターが話をつけて。
この子たちも長い休みのときは此処に住むようになった。
「……い、いいんですか?
シスター。」
「いいんじゃないかしら?
この子たちがもう少し大人になるまでの間はね。」
そんなやり取りも、もう記憶に古い。
「ところでナギサさん。
貴方の故郷から仕送りが来ていますよ。」
「えぇ、またですかぁ?
もう、私は要らないって言ってるのに。」
私の故郷オラトリオは火の神セツナウス様を祀る一族で。
村の人たちみんな家族みたいなものってことで姓もみんなオラトリオなんだけど。
その縁で今はもういいって言ってもこうして定期的に仕送りが届く。
「あらあら、良いではないですか。
好意は素直に受け取るべきですよ。」
「うーん。嬉しいことは嬉しいんですけど。
裕福な村ってわけでもないので。」
「あら、でも最近は裕福になってるとあちらの村長さんから聞きましたよ。
なんでも村の守護の方がイムヌスのナイツになったらしく。」
「え、村の守護ってメイクさんですか?」
「えぇ、そんなお名前だったと思います。」
ナイツになる代わりに村に多大な援助をしてもらってるとか。
そんな話なのかもしれないと。
うーん、なんだか知らない間にいろんなことが起きてるなぁ。
たまには里帰りもいいかもしれない。
とはいえ明後日からは学院なので、今日のうちに移動を始めないといけないんだけど。
そして2日後。
私の学院生活が再び始まった。
学院へと歩く途中、巨大な大木が目に入る。
この大木はカデンツァの守り神と言われている。
カデンツァ創立メンバーのバーパイア議長曰く、カデンツァ創設時からこの大木はあったらしい。
なんだっけ、守護神フェイドス様、だっけ?
故郷の火の神セツナウス様と並べると、なんかどっちも怪獣みたいな名前だなぁ。
「あ、ナギサさん、おはよう。」
「おはよう、詩織ちゃん。
里帰り、どうだった?」
「うぅ、ゴブ吉君が大変だった……」
「そ、そうなんだ……」
なんだか酷く懐かしい気分だった。
夏休みって言っても2週間くらいの筈なんだけど。
ワイワイとみんなで何か話している。
話の中心はキリング君のようだ。
「さすがはキリング様です。
準決勝まで勝ち上がったなんて。」
「すげー、1年で。」
「いや、まだまだだ。
ハイド先輩には手も足も出なかった。
まだまだ私も精進が足りない。」
私はよく知らないけれど、夏休みの間にお祭りをやっていたらしく。
そのお祭りで格闘大会が開かれていたらしい。
優勝は3年のハイド・サンドドル先輩。
とにかく凄い強い人ってことみたい。
「ったく、エリートはやっぱちげぇよなぁ。
あ、てかお前も大会に出たんだっけか、インファイト。」
「……う、うむ。
とはいえ1回戦負けしてしまったが。」
「……はぁ、情けない兄。」
あっちでも格闘大会の話をしている。
うーん、私は施設に帰ってたから話についていけない。
「あ、そういやお前ら聞いたか?
今期から転入生が来るんだってよ。」
「転入生?」
ガライ君の話に加わる。
「えーと、なんだっけな。
なんかどっかの村出身らしいぜ。」
「……はぁ、なんだ貧乏人か。」
「こら、レライン。
そういうことを言うものじゃない。」
村出身の人かぁ。
まぁ私も故郷は村なんだけど。
でもたぶんだけど、私の村は結構特殊な方じゃないかなぁ。
「おいお前ら、席につけ。」
そんな話をしてるうちにラーク先生が入ってくる。
「よし、全員揃ってるな。
夏休みの間、学院に残った奴らも里帰りした奴もいろいろだろうが。
こうして全員無事にまた会うことが出来たのは何よりだ。
で、もう聞いてる奴もいるかもしれねぇが。
今期は転入生が一人いる。」
ざわ、ざわ、とみんなの間でどよめきが走る。
「おう静かにしろ。
よし、入って来い。」
入って来たのはツインテールの女の子だった。
「え、えと、私はコダマって言いますっ。
コダマ・オラトリオです。
ど、どうかよろしくお願いしますっ!」
かわいいー。
初々しいー。
そんな声がみんなの中から上がった。
しかし私の感想は別だった。
(まさかの同郷の子だった!?)
うーん、私の知らない子だけど。
年齢は私より結構下だよね?
まぁこの学院、年齢は結構バラバラだったりするけど。
「待ってー。転入生はまだいるよー!?」
「そうよ。私たちを忘れないで欲しいわ。」
「あん?」
ラーク先生の疑問声を余所に二人の人影が。
あれ、転入生って一人の筈じゃ。
「私はアリンちゃん!
コダマちゃんが虐められないように転入してきたよ!」
「私はシャルディス。
コダマにつく悪い虫はただじゃおかないわよ。」
「いや誰だお前らは?
試験受けてないだろ。」
不法侵入してきた二人は、知らせを受けたアンヌ先生とシャルライト先生が連行して行った。
……な、なんなのかな?
とにかくコダマちゃんが私の隣の席に座る。
「よ、よろしくお願いします。」
「うん、よろしくねコダマ、ちゃんでいいかな?
私はナギサだよ。」
「わ、私は詩織……よ、よろしく。」
私たちは女子組で軽く挨拶する。
「コダマちゃんもオラトリオから来たんだよね?
実は私もなんだ。」
「え、そ、そうなんですかっ?
うわー、そういえばナギサさんって聞いたことあるかも。」
「そ、そういえば、さっきの人たちって、コダマさんの知り合い……?」
「あー、まぁ知り合い、ですねー。
まさか、ここまでついて来るなんて……」
コダマちゃんが恥ずかしそうに言う。
かわいい。
今期もいろいろ愉しいことがありそうな予感がしていた。
(……でも、なんでだろう?)
誰かが、近くにいない気がする。
どうしてそんなことを思うのかは分からない。
「いってらっしゃい。」
「あぁ、行って来る。」
ぼんやりと知らない男の人の姿が脳裏に浮かぶ。
うーん、まだ私、夏休みボケしてるのかな?
(……分からない、けれど。)
私たちはなんだか、とても。
とても、古い、昔からの知り合いのような気がして。
「……待ってるよ。」
「え?」
詩織ちゃん達の疑問を余所に私は思う。
……あぁ、私たちは。
いまとっても幸せなんだって。
大都市イムヌス。
この世界の、人類の中心。
その頂点には覇帝が立ち。
その下に連盟と呼ばれる補佐。
更にはナイツ・オブ・グローリアと呼ばれる国の守護騎士たち。
彼等によってこの世界の平和は長年保たれてきた。
そしていま。
「貴君を新連盟・匪躬魔使に任命する。
エルカサス・フォト。」
新たな連盟が選出される。
名門フォト家の長女エルカサスが、今日をもって連盟の末席へと名を連ねた。
彼女はドラゴンメテオ、ジゴスパーク、デス・メギドといった強力な魔法を人類の魔法体系に組み込み。
他にも多くの魔法文化の発展に尽力してきた。
誰も彼女の連盟就任に異を唱えるものはいない。
「エルお姉様!
連盟就任おめでとうございます!」
「えぇ、ありがとう。」
彼女は妹たちに囲まれ、穏やかな笑みを浮かべていた。
そんな彼女に一人の女性騎士が傅く。
「本日付けで匪躬魔使様の護衛騎士となりました。
緑騎士メイクと申します。」
「えぇ、よろしくお願いします。」
エルカサスは想う。
生まれることの出来なかった自身の妹のことを。
その事故で亡くなった母のことを。
だが過去の喪失を乗り越え、彼女はいま立っている。
(私は連盟へとなることが出来ました。
どうか見守っていて。)
エルカサスは知らない。
その妹が生まれなかったからこそ、今の自分の未来があるということを。
そう。
この時代の連盟に、神楽魔姫は”存在しない”。
彼女はフォト家の第4子として生まれる筈だったが、不幸にも流産した。
そのようにエルカサスも周りの人間も認識している。
だが真実は違う。
彼女は生まれて即、自ら命を絶った。
この世界に産まれることを拒否した。
その事実は母親すら死した以上、誰も知ることはない。
いずせによ神楽魔姫が誕生しなかったことで、エルカサスはカデンツァではなく、イムヌスでその才能を開花させていく。
必然的にエルカサスから発生するカデンツァの陰謀も何も起こらず。
エルカサスへの復讐のあと、カデンツァを統括する三魔女と呼ばれる者たちもこの世界には現れないだろう。
新たな可能性の世界は、ここに成った。
「……僕が弄ぶ余地がないレベルにまで、ね。
はー、つまんねぇ。」
誰もいない空間にて、遊ぶ者だった存在はつまらなそうに独り呟く。
だが、と。
「それでも何かしらの問題を起こすのが人間なんだ。
そのときにまた、愉しませてもらうことにしよう。」
そのかつての夢は。
現実に実現した。
考えうる限りの幸福な世界に。
ならばその先の未来はその世界に生きる人々のものでしかない。
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